商売としての経営学研究者

経営学の研究者を商売にするということにまつわるあれこれを考えてみる場です。

商売としての経営学研究者 (Day3)

なんだかんだで第3回です。(どうも経営学とか研究者像について色々と言わないと気が済まないような、執筆者のようです笑。それなりに需要があると信じて、アニソンメドレーを聞きながら)

 

今回は「慣れ」ということについて。 

先日まで東京暮らしで、とある投資にまつわる会社で2カ月ほどインターンをさせていただいておりました。それまであまりビジネスの現場に入ってどうこう、みたいな機会がなく、非常に新鮮でありがたい経験をさせていただきました。

そんな自分がいきなり現場に入ったので、色々と戸惑うことというか、疑問に思うことも多くありました。ですが、その違和感のようなものは、1ヶ月ぐらいもすると薄れていきました。

人間(良い意味でも悪い意味でも)慣れるというか、適応力が高いようです。まあそれもそのはず、いちいち目にするもの、耳にすることに感動して歓声を上げて、立ち止まってそれをしげしげと眺めて、あーでもないこーでもないと思案していたのでは、仕事になりません。

しかし、慣れるということは、本来は注目すべきもの(例:問題、改善点)をスルーしてしまうということにも、ともすればつながります。目慣れするというか、いつも見ている景色はいくら美しくても、それほど感動しなくなる。(丁寧語がめんどうになってきました笑)それは奈良や京都の人が世界遺産をそれほどありがたく思わないことを見ても分かるのでは。

 

ちょっと経営学的な話をすれば、ワイクK.E.Weickという学者さんがおりまして、『組織化の社会心理学』とか『センスメーキング・イン・オーガニゼーション』という本は日本語にも翻訳されています。

まあ有名な学者さんで、Katz&Kahnの『組織の社会心理学Social psychology of organizations』に対して、いやいや、組織ってのは静的staticに捉えてはだめで、ダイナミックに見る、現在進行形でプロセスを見ないといけないという意味で「組織化organizing」という表現を用いています。その点は執筆者も非常に共感で、現在の研究手法である創業プロセスの追跡というところにつながっています。

 

話が逸れましたが、(まあいつものことです笑)彼が提唱した考え方(概念construct)として、イナクトメントというものがあります。(以下記憶がちょっと不確かかもしれませんが、悪しからず。気になった方はグーグル先生に聞いて下さい)

要は、組織はいかにして環境を認識しているのか。環境や社会っては多義的、つまり様々な解釈があり得るものです。組織の構成員もいろんな人がいますから、同じものを見ても違うように感じたり、違うところに注目したり、記憶していたりすると思います。それは家族みたいな近しい人でもそうだと思います。

しかし、1つの組織としてそれなりにまとまって行動するには、その認識をある程度共有しておく必要があると。この認識が議論の前提になるわけですから。で、そのプロセスを彼は以下の4つに分けています。

囲い込み → 意味付け → 淘汰

まず環境の中で違和感というか「おやっ?」っと思うところがあるとします。それを囲い込んで、その部分を取り出して眺める、フォーカスを当てます。で、これは何なんだ?、あーでもないこーでもないと、そこに意味を与えようとします。(解釈)

でその解釈が個々人でいろいろあるわけですが、時間がたつにつれて、それが組織内である程度統一されてくると。そうなると、組織のメンバーは同じものを見ると、同じような解釈をするようになる。すると5年後の経営計画を作る際も、新商品開発のミーティングでも、スムーズにコミュニケーションできるようになります。現代組織論の祖であるバーナードC.Barnardは、組織を機能させる要素として①共通目的、②貢献意欲、③コミュニケーションを挙げていますが、特に重要なのが3つ目です。

というわけで、このワイクさんが言ってることは、組織がうまく機能していくプロセスを、解釈の共有に注目してモデル化してるわけです。

別の論文で以上のプロセスを星座に喩えていて、なんかかっこよかったです。単なる星の並びに意味を与えて、あれはサソリに似てるとか、乙女だとか、天秤だとか。さらにそれに神話のようなストーリーまでつけてしまう。その想像力には敬服します。

 

で、最初の話に戻ると、「慣れる」ことは、このプロセスの最初のステップである、囲い込みを阻害します。「おやっ?」と思わないことには、このプロセスは起動しません。

組織を円滑に機能させるためには、認識の共有が不可欠ですが、例えば組織を変えていきたいとき、新しいイノベーティブな製品を作り出したいとき、などには、その古い認識(前提)が邪魔をすることがあります。

だからこそ、ある論文(たしかAMR=Academy of Management Review)で、Foolish interlooperが良いと言われていました。要するに「アホな人」。立ち入り禁止って書いてあるのに、よく見ずに入っていってしまうような人ですかね笑。ほんとに危険な場所で、崖から落ちて帰らぬ人になるかもしれません。しかし稀に、その立ち入り禁止、タブー、禁忌、という看板は100年前に置かれたもので、そのときとは状況が変わっていて、今ではむしろ素晴らしい場所に変わっているかもしれません。

 

時間が無くなってきたので、最後に。

「宇宙人視点」が大事だと、小山薫堂さん(たしか佐渡島庸平さんも)書かれていた気がします。物事をゼロベースで見る、考えるということです。

またMITの石井裕さんは「他流試合」「海外雄飛」が大事だと。

いずれも、地球、自分の流派・国を別のものと比べることで、それに疑問を抱く、批判精神を持つということでしょうか。

そのように違うもの・新しいものを見て反応する=リアクティブであることが、若いということでしょう。(これは『生物学的文明論』という本に書いてあった気がします)

 

そのような人が起点となって、面白いことが起きていくのではないでしょうか。

またそれを邪魔しない環境を企業・職場・上司が用意することも不可欠でしょう。

 

何だかただの経営学解説みたいになってますが、経営学からはこんなことも考えることができるということをご理解いただければ幸いです。

そして、経営学研究者も実務家の方からすればある意味「宇宙人」でしょうし、まして自分のような若造の視点や考え方というのも、年長者の方には新鮮に感じられるかもしれません。Day2でも書きましたが、そのような様々な立場から商売に関わる商売人が、話をすると、色々と生まれてくるのではと思います。

経営学研究者であると同時に、商売人でもありたいと思う執筆者でした。

 

少し時間オーバーしました。今日はここらで。

つづく↓

 

academic-dokusho-memo.hatenablog.com