商売としての経営学研究者

経営学の研究者を商売にするということにまつわるあれこれを考えてみる場です。

商売としての経営学研究者:楠木 (2010)

前回の記事から16日が経過したようです。

 

academic-dokusho-memo.hatenablog.com

 

今日は「はてなブログ」の開発者さんにお話を伺う機会があり、現在に至る経緯や設計への思いを伺うことができました。この場を借りて感謝申し上げます。(オフィスは京都の御池通り沿いにあります)

ということで、久しぶりに書こうと思い至りました。

 

さて、前回に引き続いて、「商売としての経営学研究者」に関係しそうな先行研究を読んだので(研究者の基本動作)、この場で軽くご紹介しておきます。

一橋大学の楠木教授の『ストーリーとしての競争戦略』という本です。よくご存知の方も多いかと思います。(特にこの本が売れても執筆者には1銭も入らないので、その点はご安心ください笑)

 

さて例のごとく、引用してちょっとちゃちゃを入れる、もとい、コメントしておきます。(すべて1章からの引用です。ページ数はメモしない主義なので、ご興味ある方は、他のセンテンスとの偶然の出会いを楽しみつつ、探してみて下さい)

「経営や戦略を仕事として実践している人々とのインターフェースがどうあるべきなのか」

 前回の論文では"research-practice gap"という表現でした。これは執筆者が(細々とですが)考えていることであり、経営学研究者としての道を進むうえで、考え続けなければならない問いだと思います。

 

「学者とは、さまざまなけもの道を走っている人を眺めながら考えているという人種です。実務家に見えるものが学者には見えません。ましてや、迅速で適切なアクションもとれません。立ち止まっているからです」

 さすが楠木先生、という感じのかっこいい表現ですが(面識はありません)、特に下線部(by執筆者)が言い得て妙だなと。

これは学者と実務家の双方に言えることで、お互いに見えてるもの(あるいは、見ようとしているもの、景色)が違います。

「私は学者と実務家がやり取りすることには意義があると思っています」

だからこそ、コミュニケーション、対話をすることで何かが生まれそうな気がします。ただ、それが何なのか、という成功事例みたいなものは未だ十分に社会的に共有されていない、という点は対話が進まない一因かもしれません。

「理屈じゃないから、理屈が大切」「気合の輪郭」

経営していくうえで(この本では競争戦略を考える上で)、理屈が 2割、気合が8割だそうです。気合というのは、肌感覚というか、商売のセンスというか、そういう経験に裏打ちされたもの(この本では「フォーム」)を指します。経営学でも経営判断における直感 (intuition) の役割みたいな研究もけっこう前からあります。

 

「視点を転換し、視界を広げるために、他のさまざまな業界や企業や経営者に学ぶ必要が出てきます」

 これは、研究者にも言えることでしょうか。だからこそ異分野交流会(アカ談

acadan-kyoto.hatenablog.com

を含む)

成功例だと東大のカブリ数物連携みたいなところもあります。この場の設計の仕方、コミュニケーションの促し方は非常に勉強になります。おすすめ

こういう異業種から学ぶことは大事だと頭では分かっているが、その学びには普段よりも負荷がかかるので、ちょっとハードルが。。。みたいなことはありそう。

だからこそ交流会とか、そういう場を設けてもらうと参加したい、みたいな人が続出するのでは。


「いったん論理化して汎用的な知識に変換しておけば、(具体化能力のある)実務家は、その論理を異なった文脈に利用できるわけです」

言い換えれば抽象化。整理という表現も個人的には好きです。(これは友人の指導教官である東大経済の福田教授がいってはりました。関西弁注意)

整理はいざやってみると簡単そうで非常に時間と労力がかかることが分かります(ちょうど実感しているところです。コンサルタントの人すごい)

「逆にいえば、新しい実践へのきっかけを提供できない論理は、少なくとも実務家にとっては価値がありません」

 おっしゃる通りですね。楠木先生が支持される理由がよく分かります。プロ意識。

もちろん学術コミュニティへの貢献というのもありますし、学術論文ではそちらのウェイトは大きいと思います。またその成果(往々にして難解)を読んで、実践に生かせる洞察を引き出せる実務家さんもいらっしゃると思います。(それが"academic practitioner"でしょう。近々研究会をしようかと思うので、ご興味ある方はご一報ください。おそらくここまで読んでくださる方は多くないと思いますが。。笑)

ただし、研究者側も、多少噛み砕いて説明することを心掛けることが、サイエンスコミュニケーションとしては望ましいと思います。お互いに歩み寄る。

 

というわけで30分ほど経ちそうなので、今日はこの辺で。

よい週末を。