商売としての経営学研究者

経営学の研究者を商売にするということにまつわるあれこれを考えてみる場です。

商売としての経営学研究者:浅川 (2019)

皆様こんばんは。

いきなりですが、執筆者は「組織学会」という日本最大の経営学会の会員でして、年会費(安くない)をお納めしています。その特典として、学会報告ができる、学会誌「組織科学」に投稿できる、そして「組織科学」が郵送されてくる、といったものがあります。

で、一昨日ぐらいに最新号が送られてきました。

正直なところあまり期待していなかったのですが、タイトルが「特集:質の高い研究論文とは?」だったので、「おや?」と思って読んでみたら、わりと当りでした。

今回は慶応大学の浅川先生の論文を取り上げていますが(個人的ベスト)、他にも(この業界では著名な)神戸大の鈴木先生同志社(長らく一橋大)の佐藤先生、東大の藤本先生などなど、錚々たるメンバーでした。

前置きはさておき、本題に入ります。

 

浅川和宏 (2019)「経営研究の国際標準化時代における質の高い研究の条件:日本からのアプローチ」『組織科学』52(4), 4-12.

以下から無料で読めます!

経営研究の国際標準化時代における質の高い論文の条件:日本からのアプローチ

 

浅川先生とは以前の組織学会で少しお話させていただき、英語が上手という褒め言葉をいただき気をよくしました笑。どんどん時間が無くなりますね。。

まあ略歴とかは「慶応 ビジネススクール 浅川」で各自調べて下さい。この論文を読めばすぐに分かりますが、すごい先生です。

 

幸か不幸か日本の経営研究は世界標準化の流れの蚊帳の外にあり、依然かなりの独自性を維持している」

下線部がポイントです。

経営学ではRigor & Relevanceという2本柱が研究の質についてはよく用いられる概念です。以下ではそれを2つずつに分けて論じられています。経営学の研究に興味がある人以外は、「へー、そうなんや」と思って読み飛ばしてくださってけっこうです。

1)Rigor
・Methodological rigor「科学的厳密性」
・Conceptual rigor
「理論、概念モデルがその研究領域において受け入れられた作法に準拠して定義、提示、検討されているか」
「理論仮説を根拠づけるだけの厳密な概念定義と当該分野の研究動向との正確な理論的関連づけが欠けている」// George, 2012 AMJ 4p
2)Relevance
・Practical relevance「実務界にとっての適合性、有用性」
・Academic relevance「特定の学問領域にとっての関連性」

 

さて

「何よりも自分の研究分野におけるアカデミック・コミュニティーを国際的に持ち、常にその中で対話をすることで自分の研究水準をチェックすることが重要」

とのことです。激しく同意です。前にアメリ経営学会@シカゴ(世界最大の経営学会、AMJやAMRといったトップジャーナルの発行主体)に行ったときに思ったことですが、別に欧米人の真似をする必要はないですし、日本の大学院にいても十分にレベルの高い研究はできますが、国際水準の研究をすることは外せません。(当たり前か。。)

 

「最初の段落に、トピック、既知の知見(通説)、本研究で埋める予定の研究ギャップ、研究設問が明示されていないものは、全体が曖昧だといつも強調している」(Will Michell)
「論文の貢献(contribution)が明確に記載されていない論文は話にならない」(Mike Peng)

と有名な先生方がおっしゃっているようです。

 

それに対して、

「日本の経営研究論文の多くは、その素材の素晴らしさにも拘わらず、残念ながらその必要条件である国際標準の方法論・概念的厳密性(rigor)を満たさず、ランクの高い国際ジャーナルから早い段階でリジェクトされてしまう」
「厳密性(rigor)を満たしてこそ世界の経営学者にまじめに読んでもらえる、いわば入場券を得ることが出来る」

「入場券」というのは良い表現ですね。執筆者も中学受験(TDJ)のときに小学校の先生(恩師)に、受験ってのはチケットだみたいなことを教わりました。その後の選択肢も広がるし、そもそもその世界に入らないと見えないものもあるという趣旨だったと思います。まずはつべこべ言わずに土俵に立つための修行をせよということでしょうか。

 

ただアメリカでは投稿競争が激しいことの弊害として、短期的に結果の出やすい研究(定量)が(特に身分の不安定な若手で)多く取り組まれているという問題点が指摘されています。それに対して日本は、

「リスクを覚悟で斬新な理論や方法論を導入することが許される贅沢な環境」

アメリカと違い、一定期間内にかなりの本数をトップジャーナルに掲載できなければ失職するほどのプレッシャーにはまだ置かれていないから、思う存分リスクを冒して斬新なものにチャレンジできる土壌が日本には残っている

と。ちょうど最近、執筆者も同じようなことを考えていました。執筆者はケーススタディ(定性的研究)をメインで取り組んでいます。これは論文になりにくいと言われており、リスキーですが、その分、新たな理論を構築できる可能性を秘めています。特に執筆者が対象とするプラットフォーム・ビジネスの立ち上げプロセスについては、先行研究の蓄積が少なく、分析の手がかりがつかみにくいという困難はありますが(日々直面中。。)、当たれば目新しさはありそうだなーと、ぼんやりと思っています。

要するにこういう研究に取り組むには、今の日本の経営学を取り巻く環境は最適ということでしょうか。

ただ、裏を返せば”ぬるま湯”ということとなので、その状況でも自分を鼓舞してチャレンジを続けるのは、難しそうです。だからこそたまに海外に行って、現地のすごい人と接して、「あ、やべーな」と刺激を受ける、負けまいと思うことが必要かと思います。

「いくつものジャーナルにリジェクトされ続けても淡々と修正・改良し、投稿し続ける地道な努力を長年にわたりできる気力と忍耐力と情熱がカギとなる」

がんばります。

「日本においては、研究者が若いうちから自分の愛するテーマに出会い、ライフワークとしてパッションをもって打ち込める環境、(いわゆる海外ジャーナル論文量産という)短距離走では勝てなくとも、(集大成的業績をあげるという)ラソンで勝利する可能性が備わっていると考える」

いだてん。眠くなってきて変なことをつぶやいてますが苦笑、研究者人生は修業期間が長い(あるいはずっと修行)長期戦だと思うので、若い頃にうまく立ち位置というか自分が進んでいく方向感覚(sense of direction)がつかめるといいかなーと。

「日本を拠点に国際的に評価される論文を発信していかれる方々」

 はい、執筆者が目指すポジションです。

なかなか中身の濃い特集号なので、定価1296円ですが、ぜひ手に取って、ご覧になって下さい。(ここまで読んで下さった方、チラ見せで良ければ、持参して参上します)

それではよい週末を。