商売としての経営学研究者

経営学の研究者を商売にするということにまつわるあれこれを考えてみる場です。

商売としての経営学研究者:Rousseau (2006)

大変ご無沙汰しております。

前回の記事は82日前だそうです。

 

academic-dokusho-memo.hatenablog.com

 この「商売としての経営学研究者」というシリーズは147日前だそうです。

 

academic-dokusho-memo.hatenablog.com

 

ほぼ5か月ぶりとは、、

実は上記の記事をご本人がお読みになったそうで(お恥ずかしい)、ご連絡を頂き、12月にお会いすることになったので、それまでに色々と考えておこうと思って再開してみました。すごい偶然もあるものですね。

さて前置きはこのくらいで、カテゴリーは「先人に学ぶ」です。

今回は

Rousseau, D. M. (2006). Is there such a thing as “evidence-based management”? Academy of Management Journal, 31(2), 256-269.

という論文をご紹介します。経営学をまなばれている方ならみなさんご存知のAcademy of Management Journal(略称AMJ)です。アメリ経営学会(AOM)が発行している世界のトップジャーナルです。

このルソー先生は心理的契約 (psychological contract) などの概念で存じ上げておりました。

さてタイトルのとおり、「エビデンスに基づいた経営」なんてものはあるのか?あるとしたらどんなもんやねん?という内容です。

近い内容だと『事実に基づいた経営』という本がありますので、ご興味のある方は一読をお勧めします。論文のレファレンスが充実しており、入山先生の『世界の経営学者は(以下略)』とかお好きな方には特におすすめです。

 

さて残り21分で書かないといけないので、ぼちぼち本文に入ります。

まず

continue to rely on personal experience

ビジネスの現場はいわゆる”経験と勘”に依然として頼っているという指摘がされています。そして

research-practice gap

すなわち、研究と現場に溝がある、というお決まりの表現も出てきます。

エビデンスに基づいた~(例:政策、医療)というのはバズワードであります。

participation in research increases the salience of the evidence base

研究(のプロセス)に参加することによって、エビデンスに基づいた経営が増えるんじゃないかと。

しかし今日の組織が自ら経営に関する研究を行ったり、あるいは日常業務において経営学研究者とコラボしてることはほぼない。そういう産学連携から得られるベネフィットは大きいはずなのにと。

few organizations today do their own managerial research or regularly collaborate with those who do, despite the considerable benefits from industry-university collaborations

この点に関しては執筆者も一言あります。

企業のR&D部門はだいたい製品開発(例:自動車、医薬品、家電)に関する研究は行っていますが、組織やマネジメントについての研究部門を社内に持っている企業は少ないのではないかと思います。

同様に、産学連携はいわゆる理系では多い気がしますが、文系はあんまり見かけないような気がします。「いやいや、そんなことないで。うちやってるで」というお話があればぜひお知らせください。

なのでGoogleのProject Aristoteles(つづり間違ってたらすいません、アリストさん)とかはいい取り組みだなーと思います。心理的安全というキーワードにご興味のある方は、ぜひぐぐってみて下さい。

 

ただ大学側にも問題はあるようで、

Research evidence is not the central focus of study for undergraduate business students, MBAs // case examples

例えば、経済学部やMBAの授業で学ぶことには、あまり研究から得られたエビデンスが盛り込まれていないとルソー先生は指摘します。Harvard Business Schoolのようなケーススタディが多いと。

そもそも論文を読むことが少ないみたいなんですよね。執筆者の先生の学部ゼミでも、この前聞いたら、4年間でほとんど読んでないそうです。

もちろん読むことを課題として与えられていないというだけで、熱心な人は自主的にお読みになっていると思います。執筆者も経済学部出身ではないのですが、(むしろだからこそ?)経営の論文は学部のときからよく読んでいました。

エビデンスというのは例えば

how, when, and why 360-degree feedback might work (or not)

ということを教えてくれたりします。先行変数antecedentsや調整変数moderatorといったものですね。

the easiest teaching I do has always been to executives, because these experienced managers come to the program convinced that human behavior and group processes are the most critical things they need to learn

でもやっぱり経営幹部の人に教えるのが一番やりやすいとルソー先生は言います。彼らは社員(グループ)の行動が最も学ぶべきものだと思っているから。要するに自らのマネジメント経験から問題意識があって、学ぶ意欲が高い状態にあると。

balance between teaching principles - that is, cause-effect knowledge - and practices - that is, solutions to organizational problems -

だから原理原則(因果関係)についての知識と、現場で起きている問題の解決策のバランスを考えなきゃいかんと。要するにWhyとHowのバランスですね。

turning evidence-based management from a practice of a prophetic few into the mainstream requires champions - credible people like Pfeffer and Sutton's managerial heroes - to advertise its value

Networks of individuals, excited by what evidence-based management makes possible, need to exist to disseminate it to others

 最後にそういうものを広めていくには、チャンピオン(あるいはヒーロー)のような人が必要だとルソー先生は述べています。エヴァンジェリストとも言えるかもしれません。執筆者は"academic practitioner"という表現も好きです。

そういうエビデンスに基づいた経営というものを取り入れることで実現される会社(もっと言えば社会)というものにワクワクしてる人、つまり学問の力に理解がある、あるいは確信を持っているビジネスパーソンが増えたらいいなーというお話でした。

 

そのためにはまず研究者自身がその力を確信していること、自信を持ってお勧めできる研究を知り、また自らも行うことが不可欠なのではないか、と執筆者は思います。

引き続き、ResearchとPracticeの関わり方について考えていきたいと思います。

ご清聴ありがとうございました。