商売としての経営学研究者

経営学の研究者を商売にするということにまつわるあれこれを考えてみる場です。

先達に学ぶ:Hambrick (2007)_day2

ご無沙汰しております。

そろそろ長かった梅雨も明けそうで、暑くなりそうな気がしている執筆者です。庭のゴーヤを1つ収穫しました。

さて前回の記事は49日前に書いたそうです笑。どうも論文とかは自分が読んで分かった(気になったら)満足してしまうので、その内容をシェアしようという意欲があまり湧かないようです。

 

academic-dokusho-memo.hatenablog.com

 

さて気を取り直して、前回の続きです。

I say let's get the facts out and then direct our efforts at understanding the nuances, the whys, and the hows that lie behind the facts

 Hambrick先生は「ファクト」を共有することが今は軽視されておるが、大事じゃぞとおっしゃっていました。(こんな口調かどうかは知りません笑)

まず興味を引くファクトがあって、その裏にあるニュアンス、なぜ・どのようにそれが起きたのかを理解することに向けて努力しようじゃないかということです。

The field of management has a prevailing wisdom, to simplify a bit, that theory is ideally built from qualitative in-depth case studies and then subsequently tested on large samples or in controlled experiments. But this approach omits a crucial first step: the identification of the phenomenon or pattern that we need a theory to explain
→ I propose that we should be willing to start with the generation of facts, most typically from large-sample analysis, that can inform us as to what we need a theory for (an approach also proposed by Helfat [2007])

 で今までの経営学はセオリーというものは質的なケーススタディから生まれて、それを大規模なサンプルや実験によってテストするというのが「ふつう」だと考えられてきました。でもこのアプローチに足りないのは、セオリーを用いて説明すべき現象やパターンを見つけることです。

だからまずは大規模なサンプルを分析して、そこから面白い現象や傾向を見つけるのがええんとちゃうか、というお話です。

これはその通りで、せっかくがんばって「セオリー」なるものをエレガントに実証したとしても、それが役に立つことが少なければ、骨折り損の…ですよね。

どこを掘るのかというのはとても重要です。努力することは素晴らしいことですが、その方向性 (direction) をきちんと定めなければもったいないことになります。ある種の嗅覚のようなものが必要かもしれません。

個人的にはそういった研究の方向性を決める「研究のディレクター」みたいな人がとても大事だと思っていて、製品開発でも何でもそうですが、良い企画のもとに良い商品が出来ると思います。研究におけるアイデアマンみたいな人はいると思いますし、その人を中心として研究者のチームを作れば、経営学がもっと面白い、意味のある対象を深く掘り下げることができるのではないかと思っています。

執筆者も最近は共同研究を3つほどやっておりまして、以上のようなディレクターみたいな役割を少し意識してやっています。

 

じゃあ「良いファクト」ってなんやねんという疑問があるわけで、その条件をHambrick先生は以下のように考えておられるようです。

the fact is surprising and previously undocumented; it amounts to an associational pattern rather than just a univariate tendency; the temporal order of the involved variables is clear; the outcome variable is important; the sample is large and carefully constructed (multiple samples are a bonus); all obvious covariates and endogenous relationships have been controlled for; and the effect size is big

 今までにない驚くべきものであることから影響が大きいことまで書かれています。

 

ぼちぼち終盤ですが、経営学の領域でパブリッシュされたアイデアのうち、何度もテストされたものはほとんどないそうです。

the vast majority of published ideas in management are submitted to no tests at all, a handful are submitted to one test, and only a minuscule few are tested over and over or in multiple ways

 Hambrick先生も以下のように書いてはりますが

we care much more about what's fresh and novel than about what's right

 freshでnovelなものに価値を置きがちで、わりと新しいことを言ったもん勝ちみたいなところが学界にはあるのかなと思います。

一方で既存のアイデアの検証というのは地道で地味な作業です。ただ執筆者も多少の経験があるので分かりますが、検証をする過程で理論が改善されたり、よりその理論について理解が深まるとか、あるいは新しい理論を思いつくとか、わりと色々なベネフィットもあると思います。

もしかすると若手(ジュニア)の方が既存のアイデアの検証を修士論文とかで行なうことが多く、シニアの先生方は新しいアイデアの構想をする、みたいな役割分担があるのかもしれません。それでもやはりいくつになっても、実際に手を動かしてデータと向き合い、現場に行って肌で感じる、といったような現場・現物で研究を進めたほうが地に足の着いた「良い研究」ができるのではないかと思います。

 

最後に経営学ではないですが

For example, Marketing Letters and Economic Letters publish short articles of various types, most notably tests, replications, and minor extensions of theories

この2つのジャーナルのように、セオリーのテスト、再現、少しの拡張、といった内容の論文を積極的に掲載しているものもあるそうなので、読んでみたいと思います。

これでHambrick (2007) はだいたい最後まで読み通せたので、今夜はこれにて。

 

*次は Mintzberg (2004)『MBAが会社を滅ぼす』にしましょうかね。