経営学の方法論の参考文献
いきなりですが、研究方法(research methods)にはそれぞれ強み・弱みがあり、それらを実際に使って研究してみることで、適材適所(あるいは最適な組み合わせ=混合研究法)ができるようになると執筆者は考えています。
いちおう研究関心のところに「研究方法論」と書くことがありまして、ふと思いついたので、経営学における方法論の参考文献リスト(といってもちょびっとですが)をまとめておきたいと思います。よい文献と出会ったら、さらに追加していきます。
(注:あくまで執筆者(KUAS専任講師 稲田)の私見というか好みですので、ご承知おきください)
(注2:執筆者が読んで、いいなと思って、論文でわりとよく引用するものを載せています)
(注3:一部無料で読めるものもありますが、論文は大学等の研究機関所属の方でないと有料で高いです…。ですので基本的には経営学の学部・修士・博士の方向けだと思ってください)
全体
・Publishing in AMJのシリーズ
皆さんおなじみAMJことAcademy of Management Journalという経営学のトップジャーナルに掲載されるには、どういうことを気を付けて書くといいのか、ということについてエディターの方々がPart1~7にわたって説明されてます。
https://journals.aom.org/doi/abs/10.5465/AMJ.2011.61965960
・浅川 (2019)『組織科学』
必読です。しかも無料で読めます。この特集号の藤本先生のもよかったです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshikikagaku/52/4/52_4/_article/-char/ja/
・『リサーチ・デザイン:経営知識創造の基本技術』白桃書房
1冊読めばだいたい基本がわかるというすぐれもの。
東大の先生方(当時)が、それぞれの研究スタンスや遍歴についても書かれていて、読み物としても面白いです。
ケーススタディ
・Eisenhardt (1989) AMR
すごく有名なので説明不要ですね。とりあえず読んでください。
https://journals.aom.org/doi/abs/10.5465/AMR.1989.4308385
・Eisenhardt & Graebner (2007) AMJ
個人的にはこっちの方が好きです。ちなみにGraebner, M. E. (2009). Caveat venditor: Trust asymmetries in acquisitions of entrepreneurial firms. Academy of management Journal, 52(3), 435-472. はすばらしいです。
https://journals.aom.org/doi/abs/10.5465/AMJ.2007.24160888
・Leonard-Barton (1990) OS
長期的ケーススタディはこちら。1つの事例 (single case) でも追跡調査するといいよ、ということが書いてあります。少数事例の長期的ケーススタディは日本にいる経営学研究者にとてもフィットしてると思います(詳しくは上の浅川先生の論文を参照)。
https://pubsonline.informs.org/doi/abs/10.1287/orsc.1.3.248
・『質的データ分析法:原理・方法・実践』新曜社
日本語だとこちらがとても実践的で、とりあえずこれ1冊でOKだと思います。MaxQDAというQDA(質的データ分析)ソフトについても少し紹介されていた気がします。お世話になっております。
インタビュー調査
・『聞きとりの作法』東洋経済新報社
ケーススタディの元となるインタビュー調査 (first-hand interviews) のための実践的なアドバイスがたくさん載ってます。ただ執筆者がゼミの教科書として使おうと思ったところ、電子版しかなかったので、元ネタの論文(3部作)を載せておきます(無料で読めます)。
・Speech to Text
ちなみにインタビューを録音させてもらえることもあると思いますが、いわゆる文字起こしにけっこう時間がかかります。精度はまずまずですが、例えばMicrosoft Azureというクラウドサービスを使うと無料で音声を文字にしてくれます。Azureの登録方法とPythonのコードが以下のブログ記事で紹介されています。(かなり助かってます)
https://tech-blog.optim.co.jp/entry/2020/03/04/160000
統計的手法
とりあえずこれ一冊読めばだいたいできるようになるという「最強」の一冊です。
Pythonをつかったデータ分析
・ブログ記事
とりあえずこれを見ながらやれば、データフレームの扱いや回帰分析など(機械学習っぽいのも)ひと通りできます。すばらしい。(UCLAの友人が教えてくれました。感謝)
・IIPパテントデータベース
公表データとして例えば特許データがあります。Economics of innovationやknowledge diffusionなどの分野ではよく用いられます。大量のデータなのでExcelだとしんどいです。pandasが便利です。
https://www.iip.or.jp/patentdb/
構造方程式モデリング (SEM)
・『入門 共分散構造分析の実際』
厳密でありながらわかりやすいです。図書館でたまたま見つけましたが、最高でした。
・Qiita記事
Pythonで実行するためのコードと手順が載ってます。とりあえずこれを読めばできるようになります。ただSEMはモデル作りがやや職人技な気がするので、上の本を読んで、コードを書いて、試行錯誤するというプロセスが必要かなと思います。
https://qiita.com/h-fkn/items/4a44559748e0ef4a2c4a
シミュレーション研究のロードマップ
・Davis et al. (2007) AMJ
稲水先生に教えていただきました。これに沿って書くといい感じなります。ケーススタディの大家Prof. Eisenhardtが共著なので、ケーススタディとシミュレーション研究の相性がいいことがわかります。
https://journals.aom.org/doi/abs/10.5465/amr.2007.24351453
エージェント・ベース・シミュレーション (Agent-based simulation)
・『人工社会構築指南』書籍工房早山
artisocというソフトでシミュレーションを実行するための教科書です。ソフトは大学等に所属の人であれば無料で使えます。確か登録ページからPDFがダウンロードできるので、検索しながらコード書けるので便利です。(Pythonでもできるらしいです)
・Fioretti (2013) ORM
Organizational Research Methodsという方法論のジャーナルに載った論文です。コンパクトにまとまってます。
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/1094428112470006
コンピュータを用いたテキストデータの分析
・『社会調査のための計量テキスト分析』ナカニシヤ出版
KH Coderというソフトを使って計量テキスト分析(いわゆるテキストマイニング)をする場合はこの本がおすすめです。GUIで使いやすいです。
・Kobayashi et al. (2018) ORM
タイトル通りですが、経営学でテキストマイニングを用いる際の指南論文です。最近学会でもたまに見かけるtopic modeling(テキスト分析で"machine learning approach"と書いてある場合はだいたいこれ。でもCS分野では古典的な手法らしい…)についても書いてあります。実例としては、例えばKaplan, S., & Vakili, K. (2015). The double‐edged sword of recombination in breakthrough innovation. Strategic Management Journal, 36(10), 1435-1457. がおもしろいです。
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/1094428117722619
やや余談ですが、分析対象のテキストデータを集めるためにTwitter APIは便利です。アカデミックアカウントであればfull archive search、すなわち過去の特定の期間におけるツイートを収集することもできます。あとはWebスクレイピングもありですね(執筆者はBeautifulSoupでYahooファイナンスから企業情報を取得したぐらいです)
https://developer.twitter.com/en/docs/twitter-api/tweets/search/introduction
混合研究法 (mixed methods)
・Turner et al. (2017) ORM
稲水先生に教えていただきました。何と何を組み合わせたどんな研究があるのかを総覧することができるので、重宝します。
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/1094428115610808
こうして見ると経営学で使われる手法は(つまみ食い的に)わりとひと通りやってみた感じがします。ネットワーク分析とかはやってないですね。
数理モデル (formal model) もやりつつあるのでまた追加します。
ご質問等あればお気軽に(KUAS稲田)
inada.takahiro.l43あっとkyoto-u.jp