商売としての経営学研究者

経営学の研究者を商売にするということにまつわるあれこれを考えてみる場です。

経営学の方法論の参考文献

いきなりですが、研究方法(research methods)にはそれぞれ強み・弱みがあり、それらを実際に使って研究してみることで、適材適所(あるいは最適な組み合わせ=混合研究法)ができるようになると執筆者は考えています。

いちおう研究関心のところに「研究方法論」と書くことがありまして、ふと思いついたので、経営学における方法論の参考文献リスト(といってもちょびっとですが)をまとめておきたいと思います。よい文献と出会ったら、さらに追加していきます。

(注:あくまで執筆者(KUAS専任講師 稲田)の私見というか好みですので、ご承知おきください)

(注2:執筆者が読んで、いいなと思って、論文でわりとよく引用するものを載せています)

(注3:一部無料で読めるものもありますが、論文は大学等の研究機関所属の方でないと有料で高いです…。ですので基本的には経営学の学部・修士・博士の方向けだと思ってください)

 

全体

・Publishing in AMJのシリーズ

皆さんおなじみAMJことAcademy of Management Journalという経営学のトップジャーナルに掲載されるには、どういうことを気を付けて書くといいのか、ということについてエディターの方々がPart1~7にわたって説明されてます。

https://journals.aom.org/doi/abs/10.5465/AMJ.2011.61965960

 

・浅川 (2019)『組織科学』

必読です。しかも無料で読めます。この特集号の藤本先生のもよかったです。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshikikagaku/52/4/52_4/_article/-char/ja/

 

・『リサーチ・デザイン:経営知識創造の基本技術』白桃書房

1冊読めばだいたい基本がわかるというすぐれもの。

 

・『リサーチ・マインド 経営学研究法』有斐閣

東大の先生方(当時)が、それぞれの研究スタンスや遍歴についても書かれていて、読み物としても面白いです。

 

ケーススタディ

・Eisenhardt (1989) AMR

すごく有名なので説明不要ですね。とりあえず読んでください。

https://journals.aom.org/doi/abs/10.5465/AMR.1989.4308385

 

・Eisenhardt & Graebner (2007) AMJ

個人的にはこっちの方が好きです。ちなみにGraebner, M. E. (2009). Caveat venditor: Trust asymmetries in acquisitions of entrepreneurial firms. Academy of management Journal, 52(3), 435-472. はすばらしいです。

https://journals.aom.org/doi/abs/10.5465/AMJ.2007.24160888

 

・Leonard-Barton (1990) OS

長期的ケーススタディはこちら。1つの事例 (single case) でも追跡調査するといいよ、ということが書いてあります。少数事例の長期的ケーススタディは日本にいる経営学研究者にとてもフィットしてると思います(詳しくは上の浅川先生の論文を参照)。

https://pubsonline.informs.org/doi/abs/10.1287/orsc.1.3.248

 

・『質的データ分析法:原理・方法・実践』新曜社

日本語だとこちらがとても実践的で、とりあえずこれ1冊でOKだと思います。MaxQDAというQDA(質的データ分析)ソフトについても少し紹介されていた気がします。お世話になっております。

 

インタビュー調査

・『聞きとりの作法』東洋経済新報社

ケーススタディの元となるインタビュー調査 (first-hand interviews) のための実践的なアドバイスがたくさん載ってます。ただ執筆者がゼミの教科書として使おうと思ったところ、電子版しかなかったので、元ネタの論文(3部作)を載せておきます(無料で読めます)。

https://hosei.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=16332&item_no=1&page_id=13&block_id=83

https://hosei.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=16349&item_no=1&page_id=13&block_id=83

https://hosei.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=16362&item_no=1&page_id=13&block_id=83

 

・Speech to Text

ちなみにインタビューを録音させてもらえることもあると思いますが、いわゆる文字起こしにけっこう時間がかかります。精度はまずまずですが、例えばMicrosoft Azureというクラウドサービスを使うと無料で音声を文字にしてくれます。Azureの登録方法とPythonのコードが以下のブログ記事で紹介されています。(かなり助かってます)

https://tech-blog.optim.co.jp/entry/2020/03/04/160000

 

統計的手法

・『統計学が最強の学問である[実践編]』ダイヤモンド社

とりあえずこれ一冊読めばだいたいできるようになるという「最強」の一冊です。

 

Pythonをつかったデータ分析

・ブログ記事

とりあえずこれを見ながらやれば、データフレームの扱いや回帰分析など(機械学習っぽいのも)ひと通りできます。すばらしい。(UCLAの友人が教えてくれました。感謝)

https://note.nkmk.me/

 

IIPパテントデータベース

公表データとして例えば特許データがあります。Economics of innovationやknowledge diffusionなどの分野ではよく用いられます。大量のデータなのでExcelだとしんどいです。pandasが便利です。

https://www.iip.or.jp/patentdb/

 

構造方程式モデリング (SEM)

・『入門 共分散構造分析の実際』

厳密でありながらわかりやすいです。図書館でたまたま見つけましたが、最高でした。

 

・Qiita記事

Pythonで実行するためのコードと手順が載ってます。とりあえずこれを読めばできるようになります。ただSEMはモデル作りがやや職人技な気がするので、上の本を読んで、コードを書いて、試行錯誤するというプロセスが必要かなと思います。

https://qiita.com/h-fkn/items/4a44559748e0ef4a2c4a

 

シミュレーション研究のロードマップ

・Davis et al. (2007) AMJ

稲水先生に教えていただきました。これに沿って書くといい感じなります。ケーススタディの大家Prof. Eisenhardtが共著なので、ケーススタディとシミュレーション研究の相性がいいことがわかります。

https://journals.aom.org/doi/abs/10.5465/amr.2007.24351453

 

エージェント・ベース・シミュレーション (Agent-based simulation)

・『人工社会構築指南』書籍工房早山

artisocというソフトでシミュレーションを実行するための教科書です。ソフトは大学等に所属の人であれば無料で使えます。確か登録ページからPDFがダウンロードできるので、検索しながらコード書けるので便利です。(Pythonでもできるらしいです)

 

・Fioretti (2013) ORM

Organizational Research Methodsという方法論のジャーナルに載った論文です。コンパクトにまとまってます。

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/1094428112470006

 

コンピュータを用いたテキストデータの分析

・『社会調査のための計量テキスト分析』ナカニシヤ出版

KH Coderというソフトを使って計量テキスト分析(いわゆるテキストマイニング)をする場合はこの本がおすすめです。GUIで使いやすいです。

 

・Kobayashi et al. (2018) ORM

タイトル通りですが、経営学テキストマイニングを用いる際の指南論文です。最近学会でもたまに見かけるtopic modeling(テキスト分析で"machine learning approach"と書いてある場合はだいたいこれ。でもCS分野では古典的な手法らしい…)についても書いてあります。実例としては、例えばKaplan, S., & Vakili, K. (2015). The double‐edged sword of recombination in breakthrough innovation. Strategic Management Journal, 36(10), 1435-1457. がおもしろいです。

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/1094428117722619

 

Twitter API

やや余談ですが、分析対象のテキストデータを集めるためにTwitter APIは便利です。アカデミックアカウントであればfull archive search、すなわち過去の特定の期間におけるツイートを収集することもできます。あとはWebスクレイピングもありですね(執筆者はBeautifulSoupでYahooファイナンスから企業情報を取得したぐらいです)

https://developer.twitter.com/en/docs/twitter-api/tweets/search/introduction

 

混合研究法 (mixed methods)

・Turner et al. (2017) ORM

稲水先生に教えていただきました。何と何を組み合わせたどんな研究があるのかを総覧することができるので、重宝します。

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/1094428115610808

 

 

こうして見ると経営学で使われる手法は(つまみ食い的に)わりとひと通りやってみた感じがします。ネットワーク分析とかはやってないですね。

数理モデル (formal model) もやりつつあるのでまた追加します。

 

 

ご質問等あればお気軽に(KUAS稲田)

inada.takahiro.l43あっとkyoto-u.jp

国際学会発表(経営学):ネットワーキングと就活

皆さま、お久しぶりです。

イナダです。早いもので博士課程も最終学年になり、おかげ様で4月から京都の某K大学(京大ではありません)の講師(いわゆるassistant professor)に内定しました。ベンチャーや中小企業についての講義を担当します。

 

さて、とても久しぶりに何か書こうと思ったのは、就活が終わったことと、今年は国際学会での発表にチャレンジしたので、それらの経験をまとめておこうと思ったからです。またこれから以上の活動に取り組まれる方々(同志)に、少しでも役立つことがあれば幸いです。

(思いつくままに書きますので、好きなところだけ「つまみ読み」してください)

 

そもそもですが、私が専門とする経営学の国際学会は、主に3つあり、Academy of Management (AOM), Strategic Management Society (SMS), INFORMSです。

今年はオンライン開催ということもあり、後者2つで発表しました。

ただINFORMSはOR(オペレーションズリサーチ)やMS(経営科学)のような、経営と工学・数学・経済学の境界領域の発表が多く、いわゆる普通の経営学研究者が参加することは少ないと思います。私はエージェント・ベース・シミュレーションというやや工学的な手法を使うのでポスター発表しましたが、個人的にも、ちょっと分野が違うかなと思いました。

なので主にAOMとSMSについて書きます。

 

Doctoral consortium (DC)

AOM

まずAOMは毎年8月ぐらいにAnnual Meetingが開催され、1月上旬ぐらいに発表申込の締切があります。AOMではいわゆるフルペーパーを提出する必要があり、査読付きの学会なので、応募者全員が発表できるわけではありません。(不採択でもコメントはもらえます)

非常に残念ながら(というか今考えると明らかに準備不足で)AOMの発表は不採択でした。(来年こそは!)

ESSECというフランスのビジネススクールの友人が採択されていて、論文を見せてもらいました。ジャーナルに投稿するにはまだ時間がかかりそうでしたが、論文全体のストーリーや構造がしっかりしていて、方法論についてもきちんと書かれていました。

自然科学系では完成した論文を学会で発表するという場合もある(多い)ようですが、経営学ではいわゆる「仕掛品」を発表して、フィードバックをもらうという位置づけが主かなと思います。(ただ後でも述べますが、普通のPaper sessionよりもPaper development workshop (PDW) の方が、より踏み込んだフィードバックがもらえると思います)

 

さて、転んでもただは起きないのがイナダなので笑、なにくそと思って、なんか他に参加する方法ないかなと思って見つけたのが、以下で紹介するDoctoral consortium (DC) です。(ここでさっき登場してくれたESSECのPhD友人と出会いました。Friendly reviewと呼ばれる、投稿前の論文にコメントをしてもらっていて、とてもありがたいです。これがタイトルのネットワーキングと関係します)

Doctoral Consortium - Entrepreneurship Division

私が参加したのは、AOMのEntrepreneurship (ENT) DivisionのDCです。AOMにはDivisionというコミュニティのようなものが20~30ぐらいあって、私の先輩はOrganizational Behavior (OB) Divisionのものに参加されたそうです。

余談ですが、Organization and Management Theory (OMT) Divisionの委員長みたいなものを日本人の先生がされていたこともあり、OMTのGlobal PDWというワークショップにも参加しました。(さっきちらっと出てきたPDWですね)

 

結論からいうと、このDCは博士学生は絶対に参加した方がいいです。

 

コンサルタントではないので「理由は3つあって~」みたいな言い方はしませんが笑)理由をつらつらと挙げてみます。

1にネットワーキング、2にネットワーキングです!

海外の有名ビジネススクール(HarvardとかStanfordとか)のPhD学生の方は、自分の大学のFacultyにすごい人たちがたくさんいるので、あまり必要ないかもですが、日本の大学の博士学生はネットワーキングが決定的に大事だと思います。

しかし、いきなりProfessorに連絡を取っても、相手にされないことが多いと思います。もちろんLinkedInでコンタクトをとって、話すことも可能ですが、成功率は10%ぐらいでしょうか。(LinkedInの重要性は後ほど覚えていたら書きます)

それに対してDCに参加するのは同じ博士学生なので、明らかに仲良くなりやすいです。Job marketのことや論文の書き方など、カジュアルに話せます。

(ただ失礼を承知で書くと、ENT DivisionのDCは講義形式で、ネットワーキングの時間がほとんどなく、価値は半減という感じでした。。。偉い先生のお話やQ&AはAnnual Meetingや学会主催のセミナーでも聞けるので)

あとは名簿みたいなのがあるので、分野が近そうな人がいたら、Annual Meetingのサイトで検索してみて、発表を聞きに行って、コンタクトしてみる、ということもしやすいですかね。

 

SMS

SMSのことは後で書きますが、ついでにここで書いておくと、DCはSMSにもあります↓

https://www.strategicmanagement.net/virtual-toronto/workshops/doctoral-workshops

AOMはDivision単位ですが、SMSは全体で1つのDCです。つまりそれだけ倍率が高いのですが、1つの大学から1人しか参加できないので、いわゆるマイノリティである日本の大学からの参加者にはアドバンテージがあります。

ちなみに今年のSMSのDCで日本人参加者は私だけでした。さびしい。。

SMSのDCはかなり良かったです。

2日間で3時間ずつの計6時間という短期でありながら、トップクラスの先生方が多数参加してくださっていて、とても豪華でした。また全部で50人ぐらいで、各セッションでブレイクアウトルームで10人ずつに分かれ、先生1人に45分ほど質問できるので、かなり近い距離で話せます。あのProf. Riitta Katila (Stanford) にも質問できて、大変勉強になりました。Katila & Ahuja (2002) AMJ(Google Scholarの引用数は4000以上)のKatila先生です。

また2日目には事前に提出していた自分が書いた論文のサマリーに、学生4人に対して1人のメンターの先生がついて、個別にフィードバックをもらえる機会もあります。このときはProf. Gwen Lee (U of Florida) が事前に私の発表を聞いてくださり、とても丁寧に踏み込んだコメントを下さり、感謝感激でした。また研究へのenthusiasmについても伺うことができました。後にFriendly reviewもしてくださり、感謝に堪えません。

あとはそのときに参加していたLondon Business School (LBS) のPhD学生が、私の発表を聞いてくれたそうで、ブロックチェーン×Strategyに興味があるということで、LinkedIn経由でコンタクトしてくれました。ちなみにこんな発表です↓

https://www.strategicmanagement.net/virtual-toronto/tools/session-details?sessionId=2114

 

とにかく、DCには参加すべき!です。

だいたい自己紹介Bioや推薦状、あとは自分が書いた論文を提出することになります。私は指導の先生が外国の方で国際学会でも活躍されており、推薦していただいて、とてもありがたかったです。ただ推薦状のウェイトはそこまでない気もします。いわゆるDiversityということで、日本の大学の学生は珍しい…ので、有利かなと思います。

 

閑話休題

最初にこの記事を書くモチベーションで書き忘れましたが、国際学会に行って同年代の日本人が少なくて寂しいなぁと思ったのも1つでした。

例えばSMSのAnnual Conferenceでは、参加者を検索することができ、Japanで検索すると、10人前後しかヒットせず、また発表者は一桁でした。

2018年にAOMのAnnual Meeting@Chicagoに初めて参加したのですが、そのときは右も左もわからず、最終日に神戸大学の先輩にお会いして、一緒にタコスを食べ、とてもほっとしたのを覚えています。

もちろん日本人で固まっていても意味はないのですが、日本企業にはおもしろいところがたくさんあるので、もっと世界の人たちに知ってもらいたいなぁと思います。

 

閑話休題2)

1つ申し上げたいのは、イナダは帰国子女でもなんでもないということです。つまり英語はそれなりにしか話せません。

お恥ずかしいですが(最後のQ&Aはスルーしてください笑)、こんなもんです↓

youtu.be

ただし、多くの経営学者・院生の方々は、英語論文を日常的に読んでいると思います。またYouTubeやSMSのウェビナーなど、日本にいながら英語での研究発表を聞く機会は、多くあると思います。

なので英語で学術的なコンセプトを理解していると思いますし、それなりに話せると思います。ただ、(僭越ながら申し上げると)英会話は慣れだと思うので、こんな感じで英語で話す機会をどんどん増やせば、話せるようになるのかなと経験上思っております。

 

Paper development workshop (PDW)

さて、脱線が長くなりましたが、DCに加えておすすめなのが、PDWです。

例えばイナダは以下に参加しました↓

https://www.strategicmanagement.net/virtual-toronto/workshops/06-pdw

これはとてもお得です。(多少Organizerの先生によってばらつきはあります)

先のDCと同じように、参加するには論文(書きかけ)を提出して、Acceptされる必要があります。ただ裏を返せば、参加者が絞られているので、普通の学会発表よりも密なフィードバックをもらえます。

私が参加したものでは、参加者(主にPhD学生~Assistant professorクラス)が3人1組になり、先生が1人ついてくださります。3時間でそれが2セットある感じでした。

参加者はそれぞれ他の2人の論文を事前に読み、フィードバックを考えます。またメンターの先生も事前に読んでくれます。これはネットワーキングの機会でもあり、フィードバックを得る機会でもあり、最高です。

私の場合は、IESE(世界的に有名なスペインのビジネススクール)のPhD学生が参加していて、研究テーマが近かったので、今でもコンタクトをとっています。

普通のPaper sessionでは、10~15分程度のプレゼンテーションを聞いてもらって、不特定多数の人からフィードバックをもらうので、どうしても伝えられる情報量に限度があり、深いコメントをもらえる可能性は低いです。もちろん、広いオーディエンスに対して自分の研究を知ってもらう機会としてはよいと思います。またオンライン開催だった今年のSMSでは録画がアーカイブされるので、他の参加者に後から聞いてもらうこともできます。

ちょっと脱線ですが、特にオンライン学会では気になった研究者に、気軽にメールをするとよいと思います。私のケースでは、ブロックチェーン関連の発表を聞き、Imperial College London(イギリス)とRotterdam School of Management(オランダにありヨーロッパのビジネススクールではトップクラス)の研究者にコンタクトし、いずれも今でも交流があります。特にブロックチェーンは新しいテーマなので、私を含めてたしか3人しか発表者がおらず、つながりやすかったです。

 

とりあえず申し上げたいのは、PDWにも参加すべき!ということです。

 

あくまで個人の意見ですが、学会は発表してなんぼだと思います。聞きに行くだけだったら、それこそYouTubeでもいいし、高い参加費を払う価値はないと思います。(もちろん、初回は様子見で行ってみるのもいいと思います。私も2018年のAOM@Chicagoのときはそうでした。それで「レベルそんなに高くないな」「いきなり話しかけるとか無理やん」と思って、その後いろいろ試行錯誤して2021年のSMSに至ります)

つまり学会のコスパを最大化するためには、発表の機会をどんどん活用すべしということです。

 

ちなみにイナダは、今回のSMSでは自分で発表したのが2つ(単著1、共著1)、共同研究者に発表してもらったのが2つあります。いずれも別の研究です。

また脱線しますが、発表の機会が複数現れても、論文が1つしかなければ、1回しか機会を活用できません。これも人によりけりだとは思いますが、博士学生のうちから研究プロジェクトは同時に複数やった方がよいのではと思っています。

理由はいくつかあって、ポートフォリオで考えられるので、1つがダメでも別のがあるというリスク回避、短期・長期で結果が出るものを組み合わせることで、時間がかかるchallengingな研究にも取り組める、関連多角化によって相乗効果が期待できる、そして先に述べた発表機会の最大限の活用などです。

ただすべて単著だとリソースに限りがあるので、共同研究が多角化には有効だと思います。

 

ちょっとだけ就活について

だいたい書きたいと思っていたことは以上ですが、全く就活について触れていないので、ちょっとだけ書いておきます。

まず学会はネットワーキングの場であり、そのネットワークは就活に役立つ可能性が高いです。以下では私の体験談から、少々私見を述べます。

まず国際学会での発表は業績になるのでよいのですが、経営学の場合、日本で就活をするときに国際学会で得たネットワークは直接的にはそれほど役に立たないと思います。(もちろん国際的に活躍されている優れた日本人の先生方もいらっしゃるので、そういう方に知ってもらえるということはあります)

となると、就活という意味では、やはり国内学会での発表も有効かと思います。現にイナダも採用していただいた大学の面接時に「前に~~学会で発表聞きましたよ」と言っていただけました。(変な発表しなくてよかった、、狭い世界なので、壁に耳ありなんとやらですね)

特に日本の経営学の先生方は、組織学会や日本経営学会に所属されていることが多いので、就活の年には、そちらでの発表は必須かと思います。(組織学会は6月頃に研究発表大会があり、院生セッションというのがあります)

やはり書類や面接の情報量は少なく、事前に「よい」発表を聞いてもらった(もっといいのは個人的に知っている、あるいは指導教員の知り合い)というのは、好印象につながると思います。

 

基本は「よい研究」をし、それを発表することが、博士学生の本分だと思います。

ただ国際学会のDCやPDW(そして日本での就活の年には国内学会)という機会を「戦略的に」活用することも大切だと思います。DCやPDWは長期的なキャリアのためです。

あとは英語で発表したり、論文を書いたりする経営学の院生は(私の知る限り)まだまだ少ないので、そういう意味でも就活でもアドバンテージになると思います。英語での授業を求められる機会もこれから増えるかもしれませんが、そういう募集に対しても、自身の能力を証明することができると思います。

 

だいぶ偉そうなことを書いてしまいましたが、私も職業としての研究者のスタートラインに立ったばかりなので、これから益々精進したいと思います。特にテニュア講師であるという環境を活かし、これまで以上にトップジャーナルにチャレンジしてきたいと思います(めざせSMJ)。

 

思いつくままに書いた、読みにくい文章に最後までお付き合いいただきありがとうございました。最後まで読んでいただいた方(いきなり下までスクロールした人は除く笑)には、私で役に立つことがあれば、研究・就活の相談に乗りますので、なんなりとご連絡ください↓

inada.takahiro.l43あっとkyoto-u.jp

 

ではまた。

 

先達に学ぶ_Day1:Tucci et al. (2019). Discovering the Discoveries: What AMD Authors’ Voices Can Tell us

さて98日ぶりのブログです。久しぶりに連絡をもらったり、会ったりすると、わりとブログのことを覚えててくださる方がいらっしゃいます。

そういうきっかけがあると「ほな、たまには、いっちょ書くか」と思うので、書いてみます。

(いつもながらBGMはアニソンメドレーです。作業用なのか?笑)

 

今回取り上げるのは

Tucci, C., Mueller, J., Christianson, M., Whiteman, G., & Bamberger, P. (2019). Discovering the Discoveries: What AMD Authors’ Voices Can Tell us. Academy of Management Discoveries, 5(3), 209-216.

という論文です。

この論文を読もうと思った動機は2つありまして(ちょっとコンサルっぽく笑)、

  1. Academy of Management(世界最大規模の経営学会)がこのジャーナル(AMDと略されます)のウェビナーを以前開催されていて、そちらでfirst authorのTucci先生の講演を拝聴し、「ええ感じのおもろそうな人やな」と思った
  2. 最近platform governanceについて論文を書いているのですが、そこで引用する先行研究が2つともAMDという謎のご縁を感じている(ちなみにTucci先生が紹介されていて、その論文の存在を知りました)

ということです。第1のポイントは個人的によくあることなのですが、この人の考えを知りたい(どういう着眼点で、どういう方法論を用いるのか)というモチベーションですね。

そういう観点で読む論文を選ぶことがままあるので、自分の分野とは全然関係”なさそう”なものも乱読します。ただこれが後々自分の研究に効いてきたりするので不思議なものです。

余談ですが以下の論文もPCのデスクトップに積読になっていますが、これはStrategic Management Societyという別の大手の経営学会のAnnual Meetingに出たときに、Prof. Will Mitchelが面白いことをおっしゃっていた(また以前の浅川先生の論文でも登場されていた)ので、指名買いじゃないですが、読もうと思ったものです。今回のTucci et al. (2019)とかなり近い内容かと思います。

Arora, A., Gittelman, M., Kaplan, S., Lynch, J., Mitchell, W., & Siggelkow, N. (2016). Question‐based innovations in strategy research methods. Strategic Management Journal, 37(1), 3-9.

第2のポイントは今回紹介する論文に書かれていることですが、AMDというちょっと変わったジャーナルの特性が影響していると思います。

 

さて前置きが長くなりましたが(というかそこまで色々めんどくさいことを考えていつも論文を選んでいるわけではなく、「なんかこれおもろそう」という直感が先にあって、後で理屈をつけるとこんな感じになります)本文に入ります。

 

まず

Although the “true” story behind a study’s development is often left out of the official scholarly account, that story often provides critical insight into the nature of the discovery and the foundational work leading up to it.

DeepLという優秀な翻訳ソフトで日本語にするとこんな感じです↓

研究の発展の背景にある「本当の」ストーリーは、公式の学術的な説明からは省かれていることが多いが、そのストーリーは、発見の性質やそれに至るまでの基礎的な作業についての重要な洞察を提供していることが多い。

要するに論文というのは最終成果物(完成品)なのでとてもエレガントで美しいのですが、実はその背景 (backstage) にはわりと紆余曲折のドラマがあって、そのプロセスを知るのも大事だよねということです。

こういう「実は~」という話は特にジュニアの研究者にはとても勉強になると思います。

 

AMDにはなんと、そういった裏話が"author's voice"として録音された音声データも併せて提供されているのです。

それを文字起こしして分析したら(ユニークですねw)

we found that authors opted to publish their work in AMD (as opposed to a more traditional journal) because they believed they had a true discovery (that either challenged existing theory or laid the groundwork for new theorizing)

例によって翻訳(すばらしい)↓

私たちは、著者が(より伝統的なジャーナルではなく)AMDに論文を掲載することを選んだのは、真の発見(既存の理論に挑戦したり、新たな理論化の基礎を築いたりする)があったと信じていたからだということを発見しました

だそうです。

さらにAMDのジャーナルに投稿する著者に共通する4つのポイントが明らかになったそうですが、そろそろ時間なので、続編を乞うご期待!

(例のごとくDay1はぎりぎりイントロに入って終わりました笑)

先達に学ぶ:Hambrick (2007)_day2

ご無沙汰しております。

そろそろ長かった梅雨も明けそうで、暑くなりそうな気がしている執筆者です。庭のゴーヤを1つ収穫しました。

さて前回の記事は49日前に書いたそうです笑。どうも論文とかは自分が読んで分かった(気になったら)満足してしまうので、その内容をシェアしようという意欲があまり湧かないようです。

 

academic-dokusho-memo.hatenablog.com

 

さて気を取り直して、前回の続きです。

I say let's get the facts out and then direct our efforts at understanding the nuances, the whys, and the hows that lie behind the facts

 Hambrick先生は「ファクト」を共有することが今は軽視されておるが、大事じゃぞとおっしゃっていました。(こんな口調かどうかは知りません笑)

まず興味を引くファクトがあって、その裏にあるニュアンス、なぜ・どのようにそれが起きたのかを理解することに向けて努力しようじゃないかということです。

The field of management has a prevailing wisdom, to simplify a bit, that theory is ideally built from qualitative in-depth case studies and then subsequently tested on large samples or in controlled experiments. But this approach omits a crucial first step: the identification of the phenomenon or pattern that we need a theory to explain
→ I propose that we should be willing to start with the generation of facts, most typically from large-sample analysis, that can inform us as to what we need a theory for (an approach also proposed by Helfat [2007])

 で今までの経営学はセオリーというものは質的なケーススタディから生まれて、それを大規模なサンプルや実験によってテストするというのが「ふつう」だと考えられてきました。でもこのアプローチに足りないのは、セオリーを用いて説明すべき現象やパターンを見つけることです。

だからまずは大規模なサンプルを分析して、そこから面白い現象や傾向を見つけるのがええんとちゃうか、というお話です。

これはその通りで、せっかくがんばって「セオリー」なるものをエレガントに実証したとしても、それが役に立つことが少なければ、骨折り損の…ですよね。

どこを掘るのかというのはとても重要です。努力することは素晴らしいことですが、その方向性 (direction) をきちんと定めなければもったいないことになります。ある種の嗅覚のようなものが必要かもしれません。

個人的にはそういった研究の方向性を決める「研究のディレクター」みたいな人がとても大事だと思っていて、製品開発でも何でもそうですが、良い企画のもとに良い商品が出来ると思います。研究におけるアイデアマンみたいな人はいると思いますし、その人を中心として研究者のチームを作れば、経営学がもっと面白い、意味のある対象を深く掘り下げることができるのではないかと思っています。

執筆者も最近は共同研究を3つほどやっておりまして、以上のようなディレクターみたいな役割を少し意識してやっています。

 

じゃあ「良いファクト」ってなんやねんという疑問があるわけで、その条件をHambrick先生は以下のように考えておられるようです。

the fact is surprising and previously undocumented; it amounts to an associational pattern rather than just a univariate tendency; the temporal order of the involved variables is clear; the outcome variable is important; the sample is large and carefully constructed (multiple samples are a bonus); all obvious covariates and endogenous relationships have been controlled for; and the effect size is big

 今までにない驚くべきものであることから影響が大きいことまで書かれています。

 

ぼちぼち終盤ですが、経営学の領域でパブリッシュされたアイデアのうち、何度もテストされたものはほとんどないそうです。

the vast majority of published ideas in management are submitted to no tests at all, a handful are submitted to one test, and only a minuscule few are tested over and over or in multiple ways

 Hambrick先生も以下のように書いてはりますが

we care much more about what's fresh and novel than about what's right

 freshでnovelなものに価値を置きがちで、わりと新しいことを言ったもん勝ちみたいなところが学界にはあるのかなと思います。

一方で既存のアイデアの検証というのは地道で地味な作業です。ただ執筆者も多少の経験があるので分かりますが、検証をする過程で理論が改善されたり、よりその理論について理解が深まるとか、あるいは新しい理論を思いつくとか、わりと色々なベネフィットもあると思います。

もしかすると若手(ジュニア)の方が既存のアイデアの検証を修士論文とかで行なうことが多く、シニアの先生方は新しいアイデアの構想をする、みたいな役割分担があるのかもしれません。それでもやはりいくつになっても、実際に手を動かしてデータと向き合い、現場に行って肌で感じる、といったような現場・現物で研究を進めたほうが地に足の着いた「良い研究」ができるのではないかと思います。

 

最後に経営学ではないですが

For example, Marketing Letters and Economic Letters publish short articles of various types, most notably tests, replications, and minor extensions of theories

この2つのジャーナルのように、セオリーのテスト、再現、少しの拡張、といった内容の論文を積極的に掲載しているものもあるそうなので、読んでみたいと思います。

これでHambrick (2007) はだいたい最後まで読み通せたので、今夜はこれにて。

 

*次は Mintzberg (2004)『MBAが会社を滅ぼす』にしましょうかね。

先達に学ぶ:Hambrick (2007)_day1

皆さまご無沙汰しております。

投稿が1ヶ月おきになりがちな執筆者です。

どこからか「ブログの更新楽しみにしてるで!」というような声が聞こえてきた気がしたので、(気のせいでないことを祈りながら)眠い目をこすりながら書いてみます。

 

もちろんこのブログのテーマは「経営学」なので、経営学のトップジャーナルであるAMJから1本ご紹介します。

Hambrick, D. C. (2007). The field of management’s devotion to theory: Too much of a good thing? Academy of Management Journal, 50(6), 1346-1352.

わりと実証研究の多いイメージのあるAMJにしては珍しく、経営学に物申すみたいな、エッセイ的な内容のものです。確か入山教授の本の最後のほうで紹介されていました。

 

だいぶ前に読んで、あまり内容を覚えていないので、論文メモを1行ずつ引用し、コメントしながら思い出していきたいと思います!

Theories help us organize our thoughts, generate coherent explanations, and improve our prediction. In short, theories help us achieve understanding

理論があることで我々の思考が整理される、一貫した説明ができる、より良い予測ができる。要するに、理論によって物事を理解しやすくなるそうです。(ただの雑な翻訳ですいません…)

タイトルのとおり、経営学分野で理論偏重の傾向があるという問題点を指摘する内容です。

もちろん、理論が社会にもたらす恩恵も大きく、だからこそ多くの経営学者が理論的貢献(theoretical contribution)を追求するのです。

ただ一橋の楠木先生のように「理論というよりも論理、ロジックを提供している」方もいらっしゃいます。

(ご興味ある方は前回の記事をご参照ください)

 

academic-dokusho-memo.hatenablog.com

 

続いて

Our field's theory fetish, for instance, prevents the reporting of rich detail about interesting phenomena for which no theory yet exists. And it bans the reporting of facts - no matter how important or competently generated - that lack explanation, but that, once reported, might stimulate the search for an explanation

 ただ、経営学は「理論フェチ」である。それによって「興味深いがまだそれを説明する理論が存在しない現象」について、詳細にレポートすることが妨げられている。それを報告することで、新たな説明の仕方を探すことがスタートするかもしれないのに。

要するに、現象の報告は理論的説明とセットでないと認められない、というのが現状のようです。

すごく面白い、不思議な、奇妙な、謎の、今までにない企業にまつわる現象を見つけて、それをみんなに共有することで、一緒に「なんでやろ?」「あーでもない、こーでもない」って議論することが、確かに大事な気がします。

 

It's not enough that all our papers must invoke an overarching explanation for any expected or observed empirical results, which of course is what a theory is. Beyond that, we are obligated to pepper our papers with as many mentions of "theory" or "theoretical" or "theorizing" as possible

 "pepper our papers"とはなかなか笑

One of the most efficient ways, seemingly comprehended in all academic fields except management, is for important or interesting facts to be reported, so that subsequent researchers can then direct their efforts at understanding why and how those facts came to be (Helfat, 2007)

重要で面白い事実(例:逸脱事例)を誰かが報告して、それを別の誰かが説明しようとする。みんながてんでばらばらの現象を追いかけるのではなく、ある1つの現象をめぐって「あれちゃうか」「いや、これやろ」「いやいや、こっちの方がええやろ」(関西弁で失礼します)と話し合うのは楽しそうですね。

特に経営学は様々なバックグラウンドの人がおられるように思いますし、1つの現象を俎上にのせて、それめがけて各々が得意技を繰り出すという光景は大変わくわくです。アベンジャーズ的な

 

The object of the NBER is to ascertain and present to the economics profession, and to the public more generally, important economic facts and their interpretation in a scientific manner" (Jaffe, Lerner, & Stern, 2006)

 例えばNBER(ご存じない方はググってください。EはEconomicsのEです)の目的は、重要な経済学的ファクトとその解釈をサイエンティフィックなマナーに則って、確認し、報告することだそうです。

 

とりあえずこの論文のテーマがなんとなくイメージできて来たところで、そろそろ30分なので今日はここまで。

おやすみなさい。

記事を読みながら考える:楠木20200421

お久しぶりです。先日「執筆者について」を改訂したので、もしお暇があればお読みくださいませ。最近の研究・実践プロジェクトについても加筆しております。

 

academic-dokusho-memo.hatenablog.com

 

さて今回はいつもと趣向を変えて、Web記事にコメントを挟みつつ、ご紹介しようと思います。

といっても、300日前(笑)の記事でご紹介した楠木先生の日経ビジネスオンラインの記事ですが。

↓こちらは前のブログです。

 

academic-dokusho-memo.hatenablog.com

 

今のご時世、本よりもWeb上の記事の方が日常的に読まれている気がしますし、執筆者自身もWeb記事を読んでいる時間の方が長いかもしれません。(もちろん論文を読んでる時間を除いてですが笑)

発信の媒体が変わりつつあります。そのメディアにあわせた発信の工夫が必要なのかもしれません。YouTuber含めインフルエンサーの方はうまく時流にフィットしているのでしょう。

今どきのオンライン会議でも、今までとは違ったコミュニケーションの仕方が必要かと思います。営業とかもオンラインでいい感じに進められるようになると、またおもろい世界になりそうです。

 

さて前置きが長くなりました。

以下本題です。

 

business.nikkei.com

だいぶキャッチーなタイトルですが、キャッチされて読むと内容があってよいと思います。特に経営「学」がお好きな方には刺さるかなと。(あくまで個人の感想です笑)

 

楠木:経営学者は経営に関する考えを提供しようとする人たちですが、2つのタイプに分かれます。経営をサイエンスとして研究する人と、そうではない人です。

 

「考える」ことを仕事にしている」という表現もありました。

ビジネスマン(ウーマンも含んだ使用です)の方は、日々走っておられるので、その走っている人を眺めながら考えている人、が経営学者だというお話だった記憶があります。

楠木:サイエンスというのは「XであるほどYになる」というような普遍的法則の定立を目指します

そして、 

楠木:もちろん自身の理論を誰かが実務に役立ててくれる分にはいいのですが、実務家が直接の仕事のオーディエンスになっていないということです。アインシュタインのE=mc2は後にいろいろと役立ったわけですけれども、それをどうやって役立てるかには一義的な関心がない。科学的な知見を学術的なコミュニティーに学術論文の形でプールしておき、ここに法則がたまっているので皆さんよしなにどうぞお使いくださいというスタンスですね。実務家に対する直販をはしない、直接の顧客は学会という卸です

 後半の「皆さんよしなにどうぞお使いくださいというスタンス」や「実務家に対する直販をはしない、直接の顧客は学会という卸です」という表現は非常にイメージやすいです。

自分が価値を提供している(したい)お客さんは誰なのか、という切り口で2つのタイプに分かれるということですね。

 一方、僕のようなタイプは経営学を科学としてやっているわけではありません。法則の定立を目的としていません。「こう考えたらどうですか」「本質はここにあるのではないでしょうか」ということで、理論というよりも論理、ロジックを提供している。売り方にしても卸を通じた間接販売ではありません。本や講演を通じて、自分の考えを直接エンドユーザーである実務家に届けようとします。場合によっては企業をお手伝いすることもあります。高名な経営学者でいうと、ヘンリー・ミンツバーグ先生や、僕が仕事をしている競争戦略の分野で言うとマイケル・ポーター先生はこのタイプです。学術雑誌の論文よりも、実務家向けの本や論文をプロダクトとして重視している

確かに論文をいっぱい書いておられる先生と著書が多い先生は、わりと分かれる気がします。論文という形式をとるのは、レビュープロセスを経た厳密性を担保するためであり、そういった厳密なエビデンスを蓄積することは重要です。また論文をまとめた著書という形態もあります。ただ実務家の人をエンドユーザーとして想定したときに、Relevanceの意味は変わるでしょう。(Relevanceがいきなり出てきましたが、以下ご参照ください)

 

academic-dokusho-memo.hatenablog.com

 

楠木:そもそも商売事には法則がない、だから戦略が必要になる、というのが僕の立場です。もちろん経営科学者はそうは考えませんが。

 「商売」という表現が執筆者は好きで、すごく地に足がついている気がします。ビジネスってなんか冷たいし、難しそうだし。起業ってのもそうですかね。「商売を始める」ぐらいの軽い感じでよいのではと思っております。

 

楠木:なかなか忙しい生活の中で頭が回らないという人にロジックを提供する。僕はここに自分の仕事を位置付けています。ロジックを使って自分で考えてくださいということです。

 なるほど。フレームワークとかも近いんですかね。考えが整理、構造化、地図化されますし、考えるのを助けてくれる気がします。

楠木:ビジネスのリーダーの場合、どうやったらもっともうかるのか、自分の構想、考えを示してくださいというのが一番いい問いだと思います。その答えが戦略です。

(中略)

「何でもうかるんですか」という問いに向けて骨太なロジックでつながっていく答えがあるかどうか。

 まさに。

 楠木:戦略的な決断というのは、結婚に近いと思います。

(中略) 

正しい結婚というのは何だろうというと、だいたい要素分解して、こういうタイプのこういうふうな女性だと、より良い結婚相手であろうという話になる。なるべく多くのオプションを並べて、一番評価の高い人と結婚するのが幸せである、これが事前正解主義です。でも、それでは絶対幸せにならないと思うんです。というのは、結婚した時点で、もう自分の問題はこれで解決されていると思っているので、結婚後の生活の努力とかに対して、絶対モチベーションが下がる。

 この人と努力をしていきたい、一緒にやっていく未来をイメージできるか、あるいはそのイメージを共有できそうか、みたいなところが大事かと思います。となるとイケメンか美人かとかよりも、きちんと相手の意見を聞ける人なのか、対等に話し合いができるのか、といったコミュニケーションに関する要素の優先度が高くなるのではないでしょうか。

 

楠木:最終的には絶対に「can」じゃなきゃ意味がない。

しかし、時間的な奥行きを持って考えると、自分がやりたいことの方が絶対うまくなります。ですから時間的には「will」が先にあって、結果的にできるようになる。一方、「can」で働くと限界があります。余人をもって代えがたいというレベルでの「can」になると、何よりも、自分がすごく好きでやりたい、やっていて苦にならないということでないとものにならない。それは「will」の問題です。

そろそろ30分の制限時間が来たので、最後に「Will」「Can」のお話で締めておきます。

執筆者も研究対象(プラットフォーム・ビジネスあるいはコミュニティ、場づくり)や研究の方法論(長期的なインタビュー調査やテキスト分析)を選択している理由は、自分が好きだからです。

研究は長期戦ですから、そうじゃないと続かんと思います。ですし、別に無理に続けることもないですね。毎日呼吸をするような感じで、もちろん山あり谷ありですが、細く長く続けていければと思います。

 

以上。

食事と運動で健康にお過ごしください。

About the author

Name

Takahiro (Taka) Inada

I'm currently working as a researcher in the field of management.

 

Keywords

Entrepreneurship, Technology management, Management science, Research method,

Platform business, Start-up companies, Place creation

 

Short biography

Nara's National University Elementary School

→ Nara's integrated junior high and high school (abbreviated as TDJ)

→ Kyoto University (Faculty of Integrated Human Studies)

→ University of Tokyo (Graduate School of Economics, Master)

→ Again, Kyoto University (Graduate School of Economics, Doctoral Program)

 

Research projects

Single author No.1

・Keywords.

Entrepreneurial process, entrepreneurial actions, platform business, longitudinal case studies, Founder's stance

・Research question

RQ1: What are the actions that make the difference between success and failure in launching a platform business?
RQ2: Why were the founders able to take that action? What is the factor that separates whether an action can be executed or not?

・Data

Multi-wave interview with the founders of two platform startups (success and failure cases)

・Analytical method

Chronology of events, Qualitative data analysis

・Tool

MaxQDA

 

Single Author No.2

・Keywords

Platform business, entrepreneurial process, longitudinal case studies, comparative case studies

・Research question

How and where does a platform business differ from a conventional business (i.e., pipeline business)?

・Data

Multi-wave interview with founders of four platforms and four non-platform early-stage startups (once every four to six months)

・Analytical method

Chronology of events, Qualitative data analysis

・Tool

MaxQDA

 

Single Author No.3 (with Mr. Tumasjan, Johannes Gutenberg-Universität Mainz)

・Keywords

Platform business, blockchain technology, longitudinal case study, advanced case

・Research question

How can platform businesses be updated by blockchain technology?

・Data

Multi-wave interview with a founder of a blockchain startup (once every four to six months)

・Analytical method

Chronology of events, Qualitative data analysis

・Tool

MaxQDA

 

 

Co-author No.0 (with Mr. Horio, Kobe University)

・Keywords

Entrepreneurial learning, vicarious learning, managerial principle, newspaper article, text mining

・Research question

What do entrepreneurs learn from others and how do they apply it to their businesses?

・Data

Interviews with about 100 entrepreneurs extracted from the Nikkei Newspaper's "Human Discovery" series (25 years from 1995) (using the Nikkei Telecon).

・Analytical method

Text mining

・Tool

KH Coder

 

Co-author No.1 (with Mr. Inamizu, University of Tokyo)

・Keywords

Platform Business, C to C platform, Platform governance, Agent-Based Simulation (ABS)

・Research question

What is the optimal governance in a platform? (Development of single author 1)

・Data

None

・Analytical method

ABS

・Tool

artisoc

 

Co-author No.2 (with Mr. Okumura, UCLA)

・Keywords

Superstar companies, platform businesses, knowledge diffusion, macro economics and management, international comparisons

・Research question

How will the proliferation of industrial IoT platforms affect the distribution of productivity in manufacturing companies?

・Data

BVD Orbis

・Analytical method

Statistical analysis, formal model

・Tool

Python

 

Practical project

・Academic Dialogue Group in Kyoto and Tokyo (with Mr. Nagaoka, Kyoto University)

https://acadan-kyoto.hatenablog.com/

・Update on household management (with Ms. Inada)

Keywords such as digitalization (e.g., cloud computing), family business and entrepreneurship, continuity of work and life, and local community

・Internship (with a monozukuri-specialized venture capital  based in Kyoto)

Research and dissemination (e.g., webinar) of start-up processes for hardware unicorn companies and antecedents of venture capital syndication formation

・Also

As for extracurricular activities, I have participated in a business plan competition using unused university patents and won a prize, participated in a hackathon with friends and won a prize, and interned at an asset management company and a venture capital (VC) company. I am trying to share the experiences and perspectives of entrepreneurs and investors who are involved in the venture business. To begin with, some researchers are like entrepreneurs or sole proprietors.

 

Achievements

Inada (2018). "A description of the helping process in business start-up", Presented at the annual meeting of Japan Academic Societies for Venture and Entrepreneurs.

Inada (2019). "Businesses Nurtured in Relationships: A Longitudinal Case Study of the Founding Process of Three Companies", Presented at the annual meeting of Academic Associations for Organizational Science.

Inada (2019). "Business development through interpersonal interaction: A longitudinal case study of three nascent community-building companies.", PDW co-organized by Academic Associations for Organizational Science and Asia Academy of Management.

Inada (2019). "Challenges for founders of early-stage platform businesses: a longitudinal case study of five startups in Japan.", Pre-Conference Graduate Workshop of the Kyoto Centennial Industry Dynamics Conference.

Inada (2020). "Value creation logic of platform businesses: A comparative case study of the founding process.", IIR Summer School.

 

Hobbies

・Animation (as art and business)

・Badminton (from junior high)

 

Acknowledgement

Translated with www.DeepL.com/Translator (free version)

and a few revisions by the author.