商売としての経営学研究者

経営学の研究者を商売にするということにまつわるあれこれを考えてみる場です。

国際学会発表(経営学):ネットワーキングと就活

皆さま、お久しぶりです。

イナダです。早いもので博士課程も最終学年になり、おかげ様で4月から京都の某K大学(京大ではありません)の講師(いわゆるassistant professor)に内定しました。ベンチャーや中小企業についての講義を担当します。

 

さて、とても久しぶりに何か書こうと思ったのは、就活が終わったことと、今年は国際学会での発表にチャレンジしたので、それらの経験をまとめておこうと思ったからです。またこれから以上の活動に取り組まれる方々(同志)に、少しでも役立つことがあれば幸いです。

(思いつくままに書きますので、好きなところだけ「つまみ読み」してください)

 

そもそもですが、私が専門とする経営学の国際学会は、主に3つあり、Academy of Management (AOM), Strategic Management Society (SMS), INFORMSです。

今年はオンライン開催ということもあり、後者2つで発表しました。

ただINFORMSはOR(オペレーションズリサーチ)やMS(経営科学)のような、経営と工学・数学・経済学の境界領域の発表が多く、いわゆる普通の経営学研究者が参加することは少ないと思います。私はエージェント・ベース・シミュレーションというやや工学的な手法を使うのでポスター発表しましたが、個人的にも、ちょっと分野が違うかなと思いました。

なので主にAOMとSMSについて書きます。

 

Doctoral consortium (DC)

AOM

まずAOMは毎年8月ぐらいにAnnual Meetingが開催され、1月上旬ぐらいに発表申込の締切があります。AOMではいわゆるフルペーパーを提出する必要があり、査読付きの学会なので、応募者全員が発表できるわけではありません。(不採択でもコメントはもらえます)

非常に残念ながら(というか今考えると明らかに準備不足で)AOMの発表は不採択でした。(来年こそは!)

ESSECというフランスのビジネススクールの友人が採択されていて、論文を見せてもらいました。ジャーナルに投稿するにはまだ時間がかかりそうでしたが、論文全体のストーリーや構造がしっかりしていて、方法論についてもきちんと書かれていました。

自然科学系では完成した論文を学会で発表するという場合もある(多い)ようですが、経営学ではいわゆる「仕掛品」を発表して、フィードバックをもらうという位置づけが主かなと思います。(ただ後でも述べますが、普通のPaper sessionよりもPaper development workshop (PDW) の方が、より踏み込んだフィードバックがもらえると思います)

 

さて、転んでもただは起きないのがイナダなので笑、なにくそと思って、なんか他に参加する方法ないかなと思って見つけたのが、以下で紹介するDoctoral consortium (DC) です。(ここでさっき登場してくれたESSECのPhD友人と出会いました。Friendly reviewと呼ばれる、投稿前の論文にコメントをしてもらっていて、とてもありがたいです。これがタイトルのネットワーキングと関係します)

Doctoral Consortium - Entrepreneurship Division

私が参加したのは、AOMのEntrepreneurship (ENT) DivisionのDCです。AOMにはDivisionというコミュニティのようなものが20~30ぐらいあって、私の先輩はOrganizational Behavior (OB) Divisionのものに参加されたそうです。

余談ですが、Organization and Management Theory (OMT) Divisionの委員長みたいなものを日本人の先生がされていたこともあり、OMTのGlobal PDWというワークショップにも参加しました。(さっきちらっと出てきたPDWですね)

 

結論からいうと、このDCは博士学生は絶対に参加した方がいいです。

 

コンサルタントではないので「理由は3つあって~」みたいな言い方はしませんが笑)理由をつらつらと挙げてみます。

1にネットワーキング、2にネットワーキングです!

海外の有名ビジネススクール(HarvardとかStanfordとか)のPhD学生の方は、自分の大学のFacultyにすごい人たちがたくさんいるので、あまり必要ないかもですが、日本の大学の博士学生はネットワーキングが決定的に大事だと思います。

しかし、いきなりProfessorに連絡を取っても、相手にされないことが多いと思います。もちろんLinkedInでコンタクトをとって、話すことも可能ですが、成功率は10%ぐらいでしょうか。(LinkedInの重要性は後ほど覚えていたら書きます)

それに対してDCに参加するのは同じ博士学生なので、明らかに仲良くなりやすいです。Job marketのことや論文の書き方など、カジュアルに話せます。

(ただ失礼を承知で書くと、ENT DivisionのDCは講義形式で、ネットワーキングの時間がほとんどなく、価値は半減という感じでした。。。偉い先生のお話やQ&AはAnnual Meetingや学会主催のセミナーでも聞けるので)

あとは名簿みたいなのがあるので、分野が近そうな人がいたら、Annual Meetingのサイトで検索してみて、発表を聞きに行って、コンタクトしてみる、ということもしやすいですかね。

 

SMS

SMSのことは後で書きますが、ついでにここで書いておくと、DCはSMSにもあります↓

https://www.strategicmanagement.net/virtual-toronto/workshops/doctoral-workshops

AOMはDivision単位ですが、SMSは全体で1つのDCです。つまりそれだけ倍率が高いのですが、1つの大学から1人しか参加できないので、いわゆるマイノリティである日本の大学からの参加者にはアドバンテージがあります。

ちなみに今年のSMSのDCで日本人参加者は私だけでした。さびしい。。

SMSのDCはかなり良かったです。

2日間で3時間ずつの計6時間という短期でありながら、トップクラスの先生方が多数参加してくださっていて、とても豪華でした。また全部で50人ぐらいで、各セッションでブレイクアウトルームで10人ずつに分かれ、先生1人に45分ほど質問できるので、かなり近い距離で話せます。あのProf. Riitta Katila (Stanford) にも質問できて、大変勉強になりました。Katila & Ahuja (2002) AMJ(Google Scholarの引用数は4000以上)のKatila先生です。

また2日目には事前に提出していた自分が書いた論文のサマリーに、学生4人に対して1人のメンターの先生がついて、個別にフィードバックをもらえる機会もあります。このときはProf. Gwen Lee (U of Florida) が事前に私の発表を聞いてくださり、とても丁寧に踏み込んだコメントを下さり、感謝感激でした。また研究へのenthusiasmについても伺うことができました。後にFriendly reviewもしてくださり、感謝に堪えません。

あとはそのときに参加していたLondon Business School (LBS) のPhD学生が、私の発表を聞いてくれたそうで、ブロックチェーン×Strategyに興味があるということで、LinkedIn経由でコンタクトしてくれました。ちなみにこんな発表です↓

https://www.strategicmanagement.net/virtual-toronto/tools/session-details?sessionId=2114

 

とにかく、DCには参加すべき!です。

だいたい自己紹介Bioや推薦状、あとは自分が書いた論文を提出することになります。私は指導の先生が外国の方で国際学会でも活躍されており、推薦していただいて、とてもありがたかったです。ただ推薦状のウェイトはそこまでない気もします。いわゆるDiversityということで、日本の大学の学生は珍しい…ので、有利かなと思います。

 

閑話休題

最初にこの記事を書くモチベーションで書き忘れましたが、国際学会に行って同年代の日本人が少なくて寂しいなぁと思ったのも1つでした。

例えばSMSのAnnual Conferenceでは、参加者を検索することができ、Japanで検索すると、10人前後しかヒットせず、また発表者は一桁でした。

2018年にAOMのAnnual Meeting@Chicagoに初めて参加したのですが、そのときは右も左もわからず、最終日に神戸大学の先輩にお会いして、一緒にタコスを食べ、とてもほっとしたのを覚えています。

もちろん日本人で固まっていても意味はないのですが、日本企業にはおもしろいところがたくさんあるので、もっと世界の人たちに知ってもらいたいなぁと思います。

 

閑話休題2)

1つ申し上げたいのは、イナダは帰国子女でもなんでもないということです。つまり英語はそれなりにしか話せません。

お恥ずかしいですが(最後のQ&Aはスルーしてください笑)、こんなもんです↓

youtu.be

ただし、多くの経営学者・院生の方々は、英語論文を日常的に読んでいると思います。またYouTubeやSMSのウェビナーなど、日本にいながら英語での研究発表を聞く機会は、多くあると思います。

なので英語で学術的なコンセプトを理解していると思いますし、それなりに話せると思います。ただ、(僭越ながら申し上げると)英会話は慣れだと思うので、こんな感じで英語で話す機会をどんどん増やせば、話せるようになるのかなと経験上思っております。

 

Paper development workshop (PDW)

さて、脱線が長くなりましたが、DCに加えておすすめなのが、PDWです。

例えばイナダは以下に参加しました↓

https://www.strategicmanagement.net/virtual-toronto/workshops/06-pdw

これはとてもお得です。(多少Organizerの先生によってばらつきはあります)

先のDCと同じように、参加するには論文(書きかけ)を提出して、Acceptされる必要があります。ただ裏を返せば、参加者が絞られているので、普通の学会発表よりも密なフィードバックをもらえます。

私が参加したものでは、参加者(主にPhD学生~Assistant professorクラス)が3人1組になり、先生が1人ついてくださります。3時間でそれが2セットある感じでした。

参加者はそれぞれ他の2人の論文を事前に読み、フィードバックを考えます。またメンターの先生も事前に読んでくれます。これはネットワーキングの機会でもあり、フィードバックを得る機会でもあり、最高です。

私の場合は、IESE(世界的に有名なスペインのビジネススクール)のPhD学生が参加していて、研究テーマが近かったので、今でもコンタクトをとっています。

普通のPaper sessionでは、10~15分程度のプレゼンテーションを聞いてもらって、不特定多数の人からフィードバックをもらうので、どうしても伝えられる情報量に限度があり、深いコメントをもらえる可能性は低いです。もちろん、広いオーディエンスに対して自分の研究を知ってもらう機会としてはよいと思います。またオンライン開催だった今年のSMSでは録画がアーカイブされるので、他の参加者に後から聞いてもらうこともできます。

ちょっと脱線ですが、特にオンライン学会では気になった研究者に、気軽にメールをするとよいと思います。私のケースでは、ブロックチェーン関連の発表を聞き、Imperial College London(イギリス)とRotterdam School of Management(オランダにありヨーロッパのビジネススクールではトップクラス)の研究者にコンタクトし、いずれも今でも交流があります。特にブロックチェーンは新しいテーマなので、私を含めてたしか3人しか発表者がおらず、つながりやすかったです。

 

とりあえず申し上げたいのは、PDWにも参加すべき!ということです。

 

あくまで個人の意見ですが、学会は発表してなんぼだと思います。聞きに行くだけだったら、それこそYouTubeでもいいし、高い参加費を払う価値はないと思います。(もちろん、初回は様子見で行ってみるのもいいと思います。私も2018年のAOM@Chicagoのときはそうでした。それで「レベルそんなに高くないな」「いきなり話しかけるとか無理やん」と思って、その後いろいろ試行錯誤して2021年のSMSに至ります)

つまり学会のコスパを最大化するためには、発表の機会をどんどん活用すべしということです。

 

ちなみにイナダは、今回のSMSでは自分で発表したのが2つ(単著1、共著1)、共同研究者に発表してもらったのが2つあります。いずれも別の研究です。

また脱線しますが、発表の機会が複数現れても、論文が1つしかなければ、1回しか機会を活用できません。これも人によりけりだとは思いますが、博士学生のうちから研究プロジェクトは同時に複数やった方がよいのではと思っています。

理由はいくつかあって、ポートフォリオで考えられるので、1つがダメでも別のがあるというリスク回避、短期・長期で結果が出るものを組み合わせることで、時間がかかるchallengingな研究にも取り組める、関連多角化によって相乗効果が期待できる、そして先に述べた発表機会の最大限の活用などです。

ただすべて単著だとリソースに限りがあるので、共同研究が多角化には有効だと思います。

 

ちょっとだけ就活について

だいたい書きたいと思っていたことは以上ですが、全く就活について触れていないので、ちょっとだけ書いておきます。

まず学会はネットワーキングの場であり、そのネットワークは就活に役立つ可能性が高いです。以下では私の体験談から、少々私見を述べます。

まず国際学会での発表は業績になるのでよいのですが、経営学の場合、日本で就活をするときに国際学会で得たネットワークは直接的にはそれほど役に立たないと思います。(もちろん国際的に活躍されている優れた日本人の先生方もいらっしゃるので、そういう方に知ってもらえるということはあります)

となると、就活という意味では、やはり国内学会での発表も有効かと思います。現にイナダも採用していただいた大学の面接時に「前に~~学会で発表聞きましたよ」と言っていただけました。(変な発表しなくてよかった、、狭い世界なので、壁に耳ありなんとやらですね)

特に日本の経営学の先生方は、組織学会や日本経営学会に所属されていることが多いので、就活の年には、そちらでの発表は必須かと思います。(組織学会は6月頃に研究発表大会があり、院生セッションというのがあります)

やはり書類や面接の情報量は少なく、事前に「よい」発表を聞いてもらった(もっといいのは個人的に知っている、あるいは指導教員の知り合い)というのは、好印象につながると思います。

 

基本は「よい研究」をし、それを発表することが、博士学生の本分だと思います。

ただ国際学会のDCやPDW(そして日本での就活の年には国内学会)という機会を「戦略的に」活用することも大切だと思います。DCやPDWは長期的なキャリアのためです。

あとは英語で発表したり、論文を書いたりする経営学の院生は(私の知る限り)まだまだ少ないので、そういう意味でも就活でもアドバンテージになると思います。英語での授業を求められる機会もこれから増えるかもしれませんが、そういう募集に対しても、自身の能力を証明することができると思います。

 

だいぶ偉そうなことを書いてしまいましたが、私も職業としての研究者のスタートラインに立ったばかりなので、これから益々精進したいと思います。特にテニュア講師であるという環境を活かし、これまで以上にトップジャーナルにチャレンジしてきたいと思います(めざせSMJ)。

 

思いつくままに書いた、読みにくい文章に最後までお付き合いいただきありがとうございました。最後まで読んでいただいた方(いきなり下までスクロールした人は除く笑)には、私で役に立つことがあれば、研究・就活の相談に乗りますので、なんなりとご連絡ください↓

inada.takahiro.l43あっとkyoto-u.jp

 

ではまた。